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ニホンナシの冬季糖代謝の特徴 ― 春季発芽不良現象の対策に向けて

2013年07月17日

ニホンナシの冬季糖代謝の特徴 ― 春季発芽不良現象の対策に向けて

落葉樹は、冬季は休眠して厳しい環境から身を守っており、休眠から覚醒するには一定期間低温に遭遇することが必要です。ところが近年、秋から冬の気温が比較的高温で推移することが増えており、その場合、樹は休眠覚醒に必要な低温に十分遭遇しないまま春の開花期を迎えるため、発芽・開花の遅延や不揃いなど、果実成長への悪影響が生じます。

この「発芽不良」現象は、ひどい場合には樹そのものが枯れてしまう被害をもたらし、特に西南暖地のニホンナシ栽培現場で大きな問題となりつつあります。秋から冬の間のニホンナシの休眠状態の変化を知ることは、発芽不良の起こりやすさを事前に知るためにも重要ですが、その変化は樹の外見から判定することはできません。
落葉樹では秋季に炭水化物(デンプン)を十分蓄積し、それを可溶性糖(ナシではソルビトール)に変換することにより耐凍性を高めています。また、秋季に樹体に蓄積された炭水化物は春の萌芽のエネルギー源でもあるため、その動態は休眠ステージの進行に深く関係していると考えられます。
休眠ステージの進行に伴う糖の動態を調べたところ、冬季のニホンナシでは、(1) 枝のデンプンが糖に分解される11月下旬~12月中旬頃(自発休眠覚醒前)、(2) 枝から導管液に糖が急激に輸送される12月下旬頃(自発休眠覚醒期)、(3) 花芽の糖取り込みと利用が増加する1月中下旬頃(自発休眠覚醒後)、の3つの特徴的なステージが認められることが明らかになりました。
休眠覚醒期の導管液のソルビトール含量の増加は非常に顕著なため、増加のタイミングにより休眠覚醒時期を判定できる可能性があります。現在、発芽不良発生地域でのデータを蓄積中です。
(果樹温暖化対応プロジェクト)

論文:
1)Ito A, Sakamoto D, Moriguchi T, 2012. Carbohydrate metabolism and its possible roles in
  endodormancy transition in Japanese pear. Scientia Horticulturae 144: 187-194.

2)Ito A, Sugiura T, Sakamoto D, Moriguchi T, 2013. Effects of dormancy progression and low
  temperature response on changes in the sorbitol concentration in xylem sap of Japanese pear
  during winter season. Tree Physiology 33: 398-408.

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 地球温暖化と農林水産業 農業温暖化ネット